検討を行う農薬は、現在わが国で使用されているもの、もしくは環境中で検出されているハロゲンを含む農薬を選んだ。芳香族ハロゲン化殺菌剤4種(PCNB、フラサイド、TPN、PCP)、ポリハロアルキルチオ殺菌剤2種(ジクロフルアニド、キャプタン)、ジフェニルエーテル系除草剤3種(NIP、CNP、クロメトキシニル)の計9種類についてラット初代培養肝細胞に対する影響を調べた。その結果、強い細胞障害を示した農薬(TPN、ジクロフルアニド、キャプタン)、中程度(PCP、NIP、CNP)、弱い農薬(PCNB、フサライド、クロメトキシニル)の大きく3グループに分類された。細胞膜リン脂質の過酸化(ホスファチジルコリンヒドロペルオキシド(PCOOH)、ホスファチジルエタノールアミンヒドロペルオキシド(PEOOH))を化学発光検出(CL)-HPLC装置を用いて調べたところ、特に細胞障害の強かった3種の農薬で脂質過酸化が顕著であり、農薬無添加細胞に比べてTPN(PCOOH23倍、PEOOH7倍)、ジクロフルアニド(PCOOH523倍、PEOOH22倍)、キャプタン(PCOOH518倍、PEOOH16倍)であった。抗酸化剤(α-トコフェロール)を取り込ませた細胞では脂質過酸化が顕著であった3種の農薬を加えた場合においても、脂質過酸化は顕著に抑えられ、同時に細胞障害も効果的に抑えられた。また、薬物代謝系(P-450)阻害剤であるSKF-525Aで細胞を処理すると、脂質過酸化の抑制とともに細胞障害が抑えられた。以上のように、農薬が肝臓内の薬物代謝系で代謝される間に活性酸素を生成し、細胞膜リン脂質を過酸化して細胞障害を引き起こす経路をCL-HPLC法を用いて明確に証明することができた。他の農薬をはじめ薬物、毒物などでも、同様の経路で障害を引き起こす物質が多数予想され、今後広く検討を行えばその規制をはじめ障害の予防、治療へと役立てていけるであろう。
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