研究概要 |
まず第一のテーマとして有肺類に特徴的なγ-ピロンVallartanone Bの立体構造を合成的手法により解明した。申請者が開発した条件を用いて隣接する不斉点を損なうことなくγ-ピロン環を構築し、別途合成したケトンとアルドール縮合したのち酸触媒によるジヒドロピロン環の構築を行った。γ-ピロン環に隣接する不斉中心を失うことなく目的物へ誘導する穏和な条件の選択が鍵反応である。本合成研究によって真の立体化学が明らかになった。誤っていた推定構造を提出したFaulknerは天然物のCDスペクトルの解釈を基にしていたので、この点について半経験分子軌道計算によって妥当性を検討した。その結果、解釈の基礎となるコンフォメーションの推定に問題があることがわかった。 第二に取り上げた褐藻由来のマクロサイクリックピロンについては、エノールエーテル構造の構築法から検討する。天然から得られている類縁体を考慮すると、前駆体としてブロモエーテルを選択することが適当と考えられた。従来ピロン環とアルキルハライド間のWilliamsonエーテル化においてはpKaの関係から一般にα-ピロン生成が優先し、γ-ピロンを高選択的に得る方法は知られていなかったが、今回銀塩を活性化剤として用いることにより目的を達成することができた。このときAg^+の対イオンによってα,γ選択性が制御できることが判明し、大変興味深い。今後は、希土類を含む金属種、反応溶媒を検討してさらに高選択的な方法論の開発を行う。目的とするブロモエーテルを得た後、塩基で処理して脱臭化水素しエノールエーテルへ誘導する予定である。
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