研究概要 |
細菌,あるいは,動物のミトコンドリアやペルオキシソーム,また植物におけるグリオキシソームのβ酸化系には,エノイル-CoAヒドラターゼ,ヒドロキシルアシル-CoAデヒドロゲナーゼ,およびケトアシル-CoAチオラーゼ活性を持つ多機能酵素が存在している.本研究は,複数の触媒活性を持つ本酵素タンパク質の機能領域に注目し,基質である脂肪酸の分子認識機構,および,それぞれの反応の触媒機構を分子レベルで明らかにするために,α_2β_2のサブユニット構造を持つ大腸菌酵素を用いて,以下のように研究を進めた. まず,本酵素遺伝子の発現プラスミドpBF100構築し,そのαサブユニット遺伝子に,PCRを用いてランダムに変異導入した.このプラスミドを本酵素遺伝子の欠損株LS6749に導入して,約10^4個のコロニーからオレイン酸を単一の炭素源とする最小倍地で生育が遅くなった株を選択した.それらのαサブユニット遺伝子の塩基配列を決定したところ,Gly-67→Ser,Arg-134→Gly,Ser-151→Pro,Lys-212→Glu,Pro-383→Leu,Val-418→Ala,Val-615→Ala,Glu-625→Lys,Val-318→Glu/Val-640→Glu,Leu-270→end,Leu-55→frameshift (84→end) の変異酵素遺伝子が得られた。それぞれの変異酵素遺伝子を持つ大腸菌の細胞抽出液において,各サブユニットの量を免疫抗体法により調べたことろ,Lys-212,Val-418,Val-318 and/or Val-640残基は,α/βサブユニット間の相互作用に重要であることが示唆された.次に,本酵素と他の種由来の多機能あるいは単機能のβ酸化酵素との一時構造を比較して,保存性の高い領域の親水性アミノ酸5残基に部位特異的に変異を導入した.変異酵素の活性が低下したことから,アミノ末端領域のGlu-139残基,よびカルボキシル末端領域のMet-324,Glu-462,Lys-486残基は触媒活性に重要であることが示唆された。
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