研究概要 |
キメラグロビンは、ヒトヘモグロビンβ鎖のモジュール4をα鎖の対応する部分とタンパク工学的に置換したヘモグロビンである。モジュールはタンパク質進化における構造ブロックと考えられており、α鎖のモジュール4はサブユニット結合の機能を担っていることが分かっている。この置換がグロビンの立体構造や機能に与える影響を明らかにする目的で結晶化及びX線結晶解析を行った。 キメラグロビンはモジュール置換の影響により構造が不安定化しており、結晶を得ることはできなかった。そこで、構造を安定化するためのアミノ酸置換の導入を計画した。ホモロジーモデリングとアミノ酸置換パターン解析を組み合わせた方法(T.Shirai & M.Go(1997)J.Mol.Evol.,in press,T.Shirai et al.(1997)Protein Engng,in press)により、残基番号133のフェニルアラニンをバリンに置換したキメラグロビンF133Vを作成した。このキメラグロビンF133Vを一酸化炭素化した標品について結晶化条件の探索を行ったところX線回折実験に適した結晶を得ることができた。 この結晶は単斜晶系で空間群P21、格子定数a=62.3、b=81.5、c=55.2Å、β=90.9°であった。分解能2.5Åまでの反射データを収集し、βサブユニットの構造を用いた分子置換によって結晶構造を決定することができた。構造精密化の結果、このキメラグロビンの立体構造およびサブユニット会合の様式は、天然型β鎖のホモ4量体と良く似ている事が明らかとなった。すなわちモジュールは全体構造に大きな影響をもたらすことなく置換可能であるが、置換された構造をさらに安定化するために少数のアミノ酸置換を要する場合もあると考えられる。
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