研究概要 |
(1) カルボキシメチル化リボヌクレアーゼT_1の熱安定性の分子論的機構の解析 野生型酵素のGlu58をカルボキシメチル(CM)化すると,熱安定性が増大することがわかっている.我々は以前に1次元NMRを用いて野生型およびCM化酵素の熱変性過程を詳細に検討し,種々の熱力学諸量を求めた(Kojima et al.,FEBS Lett.351(1994)).この実験で得た数値を分子の立体構造から説明するため,分子動力学計算に基づく計算機シミュレーションを行った.Protein Data Bankに登録されている野生型の立体構造をもとに,Glu58の側鎖を置換し,エネルギー極小化・分子動力学計算を行った.そして野生型からCM化酵素に徐々に構造を変えながら各段階でGibbsエネルギー変化(ΔG)を計算した(自由エネルギー摂動法).計算は全て溶媒分子を考慮し,AMBER4.1をSilicon Graphics社製ワークステーションIRIS上で用いて行った.またCM-Glu58の静電ポテンシャルを計算するため,非経験的分子軌道法計算をGAMESを用いて行った.計算の結果,CM化酵素の推定構造では,CM-Glu58側鎖とArg77側鎖との間にイオン結合が形成され,また計算で求めたΔGの値が,従来実験で得た値と一致した.このことから,CM化酵素の安定化の機構として,CM-Glu58とArg77の塩橋形成が考えられ,実験結果をシミュレーションにより定量的にも説明することができた. (2) 野生型酵素の構造計算 野生型リボヌクレアーゼT_1の立体構造を既にNMR法により決定したが,新たにプログラムを作成し,構造をより精密化した. (3) 大量発現系の改良 リボヌクレアーゼT_1の発現系を収率を上げるため,改良した.
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