研究概要 |
(1)a.平滑筋ミオシン頭部(S-1)をコードするcDNAを申請者が調製したTrp要求性E.coli BL21株にトランスフォームした後、培養を行ない平滑筋ミオシンを認識する抗体で発現していることを確認した。Actin-activated Mg^<2+>-ATPase活性が認められたが、発現量が著しく低かったので現在大量培養を行ない、large scaleでの精製を試みている。b.平滑筋ミオシン制御軽鎖LC20のPhe22とArg160をTrpに置換した2種類のcDNAを調製した。そして5-F-Trp存在下でTrp要求性株を用いてフッ素標識LC20を発現させて、Sephacryl S-200とDEAE-Sephacelカラムクロマトを行ない単離精製した。フッ素標識LC20 mutantの^<19>F-NMRスペクトルにおける化学シフトはいずれのmutantもフリーの5-F-Trpと異なっていた。また平衡関係にある二つのシグナルが観察され、溶液中において、二つの状態があることが明らかになった。X線小角溶液散乱の実験結果からこれらのシグナルがmonoerとdimerに依存していることが示唆された。これらのことから溶液中のLC20は容易にdimerを形成することが示された。これらの実験結果から^<19>Fで標識された部位を特異的にモニターできることが明らかになった。またsmall scaleでミオシンのnative LC20とのexchangeに成功した。今後、NMRを測定するための大容量での調製法の確立を行なう必要がある。 (2)ミオシン/ADP/ScFnの複合体が申請者が提唱している収縮サイクルにおいてどのステップに対応しているかを明らかにするために次の実験を行い、AlF_4,BeFn,Viの複合体の結果と比較検討した。 a.ミオシン/ADP/ScFnの複合体とアクチンとの相互作用を^3Hで標識された[2,8^3H]-ADPを用いて調べた。ScFn複合体へのアクチンの結合はBeFn,Vi複合体よりも弱く、AlF_4複合体よりも強いことが明らかになった。このことから収縮サイクルの遷移状態付近でBeFn,Vi,ScFn,AlF_4の順で並んでいると思われる。またScFn複合体の活性システイン残基(Cys698,Cys707)及び活性リジン(Lys83)の局所的な部位での構造はAlF_4複合体に極めて類似していることが示された。さらに遷移状態形成に伴うTrp蛍光増加もAlF_4に近い値を示した。b.ミオシン/ADP/ScFn複合体を形成するミオシン頭部,Subfragment-1(S-1)の全体的な構造を調べるために、X線小角散乱法を用いて各複合体におけるS-1分子の慣性半径の測定を行なったが、過剰のScFn存在下ではミオシンのaggregationがおこり、測定できないことが明らかになった。今後単離精製した複合体を用いて測定を行なう予定である。
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