研究概要 |
我々は実際の構造決定の経験から、少ない距離情報で構造が決定できないのは部分鏡像構造が多く生じるためで、これを防ぐにはαヘリックスやβストランドなどの既に非対称性が強い2次構造を導入すれば良いはずだと考えていた。そこで実際に、構造が既知であるアクチン(372残基)でシミュレーションを行ったところ、2次構造情報と8Åまでの主鎖アミドプロトン間距離情報を用いれば4Å程度の精度で正しい立体構造が計算できることがわかった。分子量1万以上の分子でよく用いられるembedding法は非対称情報を利用できないので、今回はsimulated annealing法を主鎖構造を得る目的に特殊化して用い、さらに距離情報に基づいて構造を分割計算する手法を用いて問題を回避した。2次構造導入のためのプログラムは他の用途にも応用を始めている。 主鎖のアミドプロトンの帰属については、十分な自動化を達成した。これによりCBCA(CO)NHとCBCANHを用いて連鎖帰属ができる。このシステムは既にdestrin他いくつかの蛋白質に応用されている。 残る問題は8Åまでの距離情報が得られるかどうかである。4D N,N-edit NOESY測定を数度試したが、残念ながらそこまでの感度が得られなかった。7Å程度までなら重水素化した蛋白質について距離情報が得られることが一部で報告されているので、今後2倍程度感度が上昇すれば構造が得られることになる。これまでの装置の進歩を考えればこの感度は近年中に十分可能であると考えられる。 以上まとめると、我々の3つのスペクトルだけを用いる方法で大まかな立体構造を得ることが十分可能であることが示された。将来この簡便な方法で、多くの蛋白質の構造が効率良く得られるものと確信している。
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