本研究では当初、出芽酵母のDNAヘリカーゼBの相同遺伝子を単離し、その突然変異株を解析することを目的として、マウスDNAヘリカーゼBの配列をもとに出芽酵母遺伝子をスクリーニングしていた。本研究遂行中の1996年5月に出芽酵母の全ゲノムプロジェクトが完了し、そのデーターベースを検索した結果、酵母には一目ではっきりとわかるようなDNAヘリカーゼBの相同遺伝子は存在していなかった。そこでDNAヘリカーゼBの酵母での解析は中止し、マウス及び他の脊椎動物のヘリカーゼBの解析に研究の中心を移した。まず、私が単離したマウス温度感受性変異株tsFT848細胞でのDNAヘリカーゼB活性の熱不安定性がヘリカーゼBの遺伝子の変異に由来するか否かを決定した。すなわち、野生株と変異株から抽出した、mRNAをもとにRT-PCR法を用いてそれぞれヘリカーゼBのcDNAを合成し、全塩基配列を決定し、tsFT848株のものにミスセンス変異をひとつ見出した。このことより、DNAヘリカーゼBの熱不安定性の原因がDNAヘリカーゼB遺伝子の変異によることを証明できた。次にDNAヘリカーゼBの細胞内での局在をヘリカーゼBに対するポリクローナル抗体を用いて検討した結果、ヘリカーゼBはPCNAなどと同じところに存在し、核内のDNA複製が盛んなところに局在していた。以上より、「ヘリカーゼBは哺乳類細胞のDNA複製で必須の働きをしている」という仮説を証明できたと考えている。今後、マウスの個体レベルでのヘリカーゼB蛋白質の役割の追求、またDNA複製のどの反応に必要かアフリカツメガエルの試験管内DNA複製系での解析が今後の課題である。
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