研究概要 |
抗体分子は、生体防御機構を司る免疫系において重要な役割を果たしており、創薬等応用面から重要な生命分子であるが、抗体の抗原認識領域は、あらゆる分子を認識できる可能性があるゆえ、蛋白質相互作用を解析し理解する上のモデルケースとして、最も理想的な系である。抗体分子の抗原に対する認識能の特徴は高い特異性と親和性にあり、その機構解明は蛋白質の分子設計を行う上で多くの有益な知見を与える。申請者らは、X線結晶構造解析によってその構造が原子レベルで記述されている抗原及び抗体である、ニワトリリゾチーム(HEL)とそのモノクローナル抗体HyHEL10の相互作用に着目し、遺伝子工学による部位特異的アミノ酸置換法並びに感度が非常に高い滴定型熱量測定により抗原抗体反応の詳細な解析を行ってきた。本年度は従来の抗原抗体反応の詳細な正確付けをさらに深め、抗原抗体反応における塩橋の役割について考察した。HyHEL10の重鎖Asp32とHELのLys97の間に形成される塩橋に着目し、Asp32をAla, Asn, Gluに改変し、HELとの相互作用を解析したところ、親和性に影響が殆どないが、エンタルピー変化、エントロピー変化ともに大きく増しており、その方向は変異体によって変わらないことが明らかになった。これは塩橋形成によって、抗体の過度な接触が抑えられ、エントロピー損を少なくしていることを示唆していた。さらに本研究では、抗体分子の自在な人工設計を目刺し、抗体分子の機能変換を進化工学的手法により行い、得られた抗体と標的抗原との相互作用を詳細に解析した。申請者の属する研究グループが開発した安定なファージ提示系をさらに整備して、特に非常に弱い結合能しか示さないヒトリゾチームに対する高い特異性と親和性をもつ抗体を選択し、抗原との相互作用を熱力学的に解析した。エントロピー損を現象させることがヒトリゾチームに対する親和性向上につながっていることが示された。
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