酵母染色体の安定保持に関わるMCS1/SSD1遺伝子産物の機能解明の一環として、Mcs1pと結合する蛋白質をコードするBPM1遺伝子をtwo-hybrid法により単離した。BPM1遺伝子は5番染色体のYER32Wと同一であり、他の蛋白質と相同性を示さない新規の蛋白質をコードする。 細胞内のBpm1蛋白質を検出するシステムを構築したことにより、実際に細胞内でMcs1蛋白質とBpm1蛋白質が相互作用することを明らかにした。更に両者の結合領域を限定した結果、Mcs1pのN末側、約200アミノ酸とBpm1pのC末側、約300アミノ酸が必須であることが明らかになった。これらの結合領域にはそれぞれ比較的長いヘリックス構造があることから、ヘリックス構造を介して両者が相互作用している可能性が考えられる。 遺伝学的解析から、細胞内のBPM1遺伝子を破壊した株の表現形は、MCS1/SSD1遺伝子破壊株の現在までに報告されている表現形とは類似していない事がわかった。またMCS1/SSD1遺伝子の高発現による増殖阻害現象はBPM1遺伝子に依存せず、MCS1/SSD1単独で引き起こされることを明らかにしたことより、Bpm1pの機能は単純にMcsl蛋白質の機能を活性化させるものではないことが予想される。 今回、はじめて、染色体の安定性に関わるMCS1/SSD1遺伝子産物がRNAと結合する活性を見い出したことより、Mcs1蛋白質の機能解明を前進させた。 以上の事実はMcs1蛋白質が複合体を形成してRNAの修飾、あるいは機能発現に関与していることを表わす。また本研究の成果はMcs1蛋白質と相同性を示す大腸菌のVacB、分裂酵母のDis3p、赤パンかびのCyt4pなど、現在まで機能が不明であった蛋白質の解明にも大きく貢献する事になる。
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