研究概要 |
カゼインキナーゼII(CK2)は、もっとも早く同定された蛋白質キナーゼの一つであるが、未だに細胞内での活性の制御機構は殆ど解明されていない。これまでに核移行シグナルペプチド(NLS)によって活性を制御されるキナーゼを同定する過程で、CK2が細胞粗抽出液中でNLS依存的に94-kDa Glucose Regulated Protein(GRP94)をリン酸化する事を見いだした。しかし精製したCK2によるGRP94のリン酸化はNLSに依存しない事から、CK2にNLS依存性を付与する何らかの細胞内因子の存在が予想された。この因子の同定及び精製を目的として実験を行い、以下の結果を得た。 NLSの存在下にGRP94をリン酸化する活性を指標として培養細胞の粗抽出液中のキナーゼを追跡すると最終的に得られたのは精製CK2のみであった。しかし精製の最終段階でCK2はNLSに依存せずにGRP94を良くリン酸化するようになった。即ち、CK2によるNLS依存性のGRP94のリン酸化は、NLSによってCK2のリン酸化活性が促進されているというよりはむしろ、NLSの非存在下ではCK2の活性が細胞粗抽出液中の何らかの因子によって制御されており、NLSペプチドの添加によってその制御が解除されると考えるほうが妥当であることが判った。 そこで次に、CK2活性をNLSの非存在下で抑制する因子の同定を試みた。精製CK2とCK2特異的基質ペプチドを用いてアッセイすると、細胞粗抽出液中にはCK2の阻害活性があることが判った。この抑制活性はCV1,COS7,HeLa,3Y1等の細胞株で共通に見られた。細胞の粗抽出液を100℃で5分間煮沸すると、内在性のCK2は完全に失活したが、外から加えたCK2に対する阻害活性は失われなかった。そこで熱処理した細胞粗抽出液から各種カラムクロマトグラフィーでこの抑制活性の精製を試みた。この抑制活性は陰イオン交換カラムに完全に吸着し、塩濃度勾配でシングルピークとして溶出された。現在他のカラムクロマトグラフィーを用いてその挙動を追跡している。
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