研究概要 |
本研究では,ニワトリ胚の中脳(視蓋)における吻尾極性形成に関わる遺伝子発現調節のカスケードの解析を,強制発現系を用いて行った.当初はレトロウィルスベクターを使用していたが,期待したほどの発現が得られなかったため,本年度の後半から別の方法を検討した結果,in ovoエレクトロポレーションが有効であることを見いだした.そこでPax-5あるいはEn-2, FGF8の強制発現ベクターをエレクトロポーレーションにより孵卵2日目のニワトリ胚の中脳に導入して,それぞれが他の遺伝子の発現に及ぼす影響を見た.この結果,(1)Pax-5は同一の細胞内でFGF8の発現を誘導すること,(2)さらにPax-5はEn-2の発現も誘導するが,その範囲はより広い領域にわたり,可溶性のFGF8タンパクが拡散しその影響により発現が誘導されたと考えられること,(3)同様にPax-5はWnt-1の発現も誘導するが,その発現パターンから,FGF8の発現を介さず,単一の細胞内での遺伝子間の相互作用による誘導である可能性が高いこと,(4)逆にFGF8もPax-5の発現を誘導することを見いだした.En-2の強制発現による影響に関しては現在検討中である.これらの事実はショウジョウバエにおける遺伝子カスケードが必ずしも脊椎動物では保存されておらず,より複雑なネットワークを作っていることを示すものである.またここで取り上げた遺伝子は全て中脳の尾側から後脳の吻側にかけて峡部(isthmus)を中心にして発現しているが,単純にどの遺伝子がカスケードの最上部に位置するとは結論づけられず,別のより上位の因子の存在を仮定するか,別の位置情報を与えるメカニズムを仮定する必要があることをも示していて興味深い.
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