研究概要 |
メダカ孵化酵素は、2種の蛋白分解酵素より成る酵素系である。両酵素は、孵化腺細胞という特殊に分化した細胞により合成され、孵化時に分泌される。しかしながらその遺伝子の発現は発生初期にさかのぼり、in situハイブリダイゼーション法により遺伝子発現を検出すると、後期嚢胚期の胚盤葉下層の先端部の限られた細胞群で初めて観察される。これら胚盤葉下層先端部の細胞群は原腸陥入の際,最初に陥入する部位に位置し,このことより孵化腺細胞はオルガナイザーに由来すると考えられる。このように孵化酵素遺伝子は発生学上極めて興味深い時期に発現する。孵化酵素遺伝子の発現調節を研究するためレポーター遺伝子の発現系を作製することを試みた。孵化酵素遺伝子の転写開始点を含む5'上流域数kbpをPCR法により増幅し、その断片をβガラクトシダーゼまたはGFP遺伝子の上流域に挿入した。作製されたレポーター遺伝子はマイクロインジェクション法により一細胞期の胚に注入した。その後発生させ発現の予想される複数の発生段階でレポーター遺伝子の発現を観察した。結果は50-100個の遺伝子導入胚のうち1-2個の胚に孵化腺細胞と見られる数個の細胞に於て遺伝子の発現が検出された。しかしながら、転写調節を研究する上でこの発現効率は低すぎる値である。対照として用いた胚全体で発現するSV40またはCMVプロモーターを結合したレポーター遺伝子では50-20%の細胞での発現が見られるが、発現した胚の多くは数個の細胞でしか発現が見られない。つまり導入したDNAが発生過程で不均一に分布または導入されるためレポーター遺伝子の発現が強いキメラ性を示すことがわかった。現在、他の遺伝子導入法により発現のキメラ性が改善されるかどうかを検討している。
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