ラットを用いた大脳皮質の機能構築に関する研究手法・研究技術を確立させるため、当年度はげっ歯類の大脳皮質の中で比較的研究の進んでいる一次体性感覚野ヒゲ領域(バレル皮質)について検討した。バレル皮質は個々のヒゲに対応した機能的モジュールすなわちバレルカラムを形成しているが、電気生理学的手法により単一ニューロンを記録しながら、複数のヒゲを様々なタイミングで刺激するとニューロンの存在位置や刺激の時間間隔に依存して、応答様式に促通や抑制といった修飾が見られた。 こうしたニューロンの応答様式に影響を及ぼす構造的な解釈のひとつとして、バレル皮質内においてカラム間を相互に連絡するような投射様式の存在が考えられる。そこで、電気生理学的に受容野を同定した領域に神経トレーサーを限局して注入したところ、場所依存的に投射パタンの異なることが観察された。末梢からの求心性入力が終末するIV層では標識される領域が小さいことに加え、カラム間の結合は比較的弱く、カラムに挟まれた領域(セプタ)間で強い結合の見られる傾向があった。V層では水平方向の軸索側枝が非特異的にしかも長距離にわたって観察された。一方II/III層では長距離の直線的な水平軸索側枝はV層ほど発達していない傾向が見られた。 以上の結果から、バレルカラム間の相互作用にはII/III・V層での水平結合が主要な役割を果たしていること、さらにII/III層とV層ではカラム間相互作用に関わる機能的結合が異なる可能性があることなどが示唆された。
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