研究概要 |
1,胃に分布する二種類の感覚神経;迷走神経節由来の感覚神経(VN)と脊髄後根神経節由来の感覚神経(DN)を、神経節に神経標識物質DiIを注入し、蛍光標本を観察、比較検討した。いずれの感覚神経も胃壁全層に分布していたが、各層内では若干その形態が異なっていた。粘膜内ではVNは深部の幽門腺周囲に分布し蛇行と枝分かれが多かったが、DNは深部から表層に向かってまっすぐに走行しあまり枝分かれしなかった。筋層内ではいずれも平滑筋線維にそって走行しているものが多かったが、DNは枝分かれが少なかった。2,後根神経節由来の神経による内臓痛の発現、伝達機構を調べるために、胃に刺激を加え脊髄でのfos蛋白の発現を調べた。胃の内腔に酢酸、ホルマリン等を投与したときにはfos蛋白は発現しなかったが、腹腔内に酢酸を投与すると脊髄後角にfos蛋白が発現した。またストレス潰瘍作製後胃の内腔にホルマリンを投与すると、fos蛋白が発現した。後根神経節由来の感覚神経は、通常内腔からの刺激に応じないが、ストレスや胃粘膜病変があると応じてくることがわかった。3,神経節から胃まで神経線維を標識するために単純ヘルペスウイルス(HSV)の応用を検討した。またHSVによるfos蛋白の発現を調べた。マウス足底に1型HSVを注入すると、2日で後根神経節ニューロンが、3日で脊髄前角ニューロンがウイルス抗原陽性となり胞体部及び樹状突起がよく標識され、その後消失した。後角二次ニューロンにはfos蛋白は発現しなかった。しかし2型HSV感染では、5日後に脊髄後角ニューロンでウイルス抗原陽性となり、fos蛋白が発現した。Fos蛋白はニューロンからニューロンへの感染によって発現すると考えられた。また侵害刺激でも後根神経節にはfos蛋白が発現しないので、後根神経節ニューロンと脊髄後角ニューロンではfosの発現について異なった性質をもつとも考えられる。
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