鋤鼻神経細胞の発生及び再生の研究を培養系を用いて行った。今までの鋤鼻器官の培養法では、1週間から10日の培養後に神経細胞が消失してしまい、鋤鼻神経細胞の発生及び再生を研究するには不十分であった。そこでまず鋤鼻器官の長期培養法の開発を試みた。ラット胎児由来の鋤鼻器官を取り出し、酵素処理により小さな細胞塊を調製した。酵素処理により器官を細胞一つ一つにほぼ完全にバラバラにすることも可能だが、このような処理をするとうまく培養できない場合が多いので、適当な塊にして培養する。培養ディシュにあらかじめフィダ-細胞として、我々が今回樹立したラット胎児鋤鼻器官由来の接着性の細胞を使うと培養がよりうまくいくことがわかった。培地は血清を加えると、マクロファージ様の細胞が増えて、神経細胞がうまく培養できないので、無血清培地を用いた。この培養法により、数カ月にわたり、鋤鼻神経細胞を培養系で観察することができるようになった。培養中に新しく神経細胞は生まれてくることから幹細胞もおそらく共存するものと思われる。細胞集団が均一でないため、幹細胞の増殖因子、鋤鼻神経細胞への分化因子、鋤鼻神経細胞の成熟を誘導する因子などの同定が困難であるが、現在検索中である。長期培養中の鋤鼻神経細胞は、ミイクロノ-ズと呼ばれる集合体を幹細胞とともに作っている。ここからでている軸索束を切断してやると、暫くしてから再び軸索束が形成されてきた。これは鋤鼻器官の再生を培養系で調べるためのよいモデルとなることが期待される。
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