1 目的:末梢神経が損傷を受けると、脊髄後根神経節(DRG)ニューロンを起源とした自発放電が発現することが知られている。この自発放電は、神経損傷後の持続性の自発痛の一因と考えられている。さらに、交感神経系の活動が、このDRGニューロンを起源とする自発放電を変調(増加または減少)することが明らかにされている。しかし、交感神経節後線維の終末から放出されるノルアドレナリンが、DGRニューロンに及ぼす作用機序は明らかにされていない。そこで、今回の研究では、ノルアドレナリンがDRGニューロンの興奮性をどのように修飾するのか、Whole-cell patch clamp法を用いてイオンチャンネル機構のレベルで解析検討した。 2 結果と考察:平成8年度の奨励研究(A)の交付を受け、上記の問題について以下の点を明らかにした(平成8年日本疼痛学会にて口頭発表)。 (1)α2受容体のアルゴニストであるclonidineは、DRGニューロンに認められるH-current(K^+とNa^+の電流)を抑制した。 (2)H-currentの抑制により、DRGニューロンのスパイク発火頻度が低下した。 この結果から、神経損傷を伴ったDRGニューロンのに対する交感神経系の作用の一つとして、ノルアドレナリンがα2受容体を介してH-currentを抑制し、DRGニューロンの起源とする自発活動の発火頻度を低下させることが示唆された。しかし、ノルアドレナリンにはDRGニューロンに対して、抑制作用とは逆に興奮性促進作用もあることがわかっている。今後の課題として、ノルアドレナリンによる種々のイオンチャンネルへの修飾作用を解明する必要があると考える。
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