研究概要 |
Helicobacter pyloriは、ヒトの胃炎、胃潰瘍の原因菌としてばかりでなく、疫学的研究から、胃癌との関連性が指摘されている。また、一方でヒトープロト型c-Ha-ras遺伝子導入(Tg)マウスでは発癌物質の投与によって早期に腫瘍が多発することが、知られている。今回我々は、無菌(GF)-Tgマウス(BALB/cByJ×B6rasH2F1)での菌の定着性および肉眼的、組織学的変化を検討し、胃癌モデルとしての有用性を検討した。 東海大学医学部第6内科で、消化管潰瘍患者より内視鏡にて採取したH.pylori(No.130株)を、4週齢,GF,c-Ha-ras遺伝子導入Tgマウスに、一日あたり10^9個、3日間連続経口投与し、さらに菌投与一週間後胃癌誘発剤であるN-methyl-N-nitrosourea(MNU)を10mg/kg腹腔内接種した。胃の材料は、菌投与後3および18週間目に行なった。 胃内菌数は、GFTgMNU+(n=3),GFTgMNU-(n=3),GFnon-TgMNU+(n=4),GFnon-TgMNU-(n=4)およびGFBALB/cMNU-(n=4)の各群で、感染後3週で1.00×10^5、18週では1.09×10^5から1.89×10^5となり、いずれの群においても良好に菌が定着しているのが認められた。 肉眼病変は、いずれの群においても認められず、また病理学的検索においても胃における炎症、糜爛、および腫瘍等は認められなかった。 以上の結果から、本遺伝子導入マウスをH.pylori感染胃癌モデルとして用いるためには、菌株の選択、MNUの投与量および観察期間などさらなる検討が必要であると思われた。
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