本研究は、顕微授精技術を遺伝子導入動物作成や雄性不妊治療(野生動物、ヒト)への応用のために、精子細胞以前の精祖細胞(二倍体)や一次精母細胞(四倍体)の利用を目指したものである。そこで、1)精祖細胞あるいは一次精母細胞を精子細胞まで体外で培養する、あるいは2)一次精母細胞を直接顕微授精に用いる、の2点について研究を進めた。動物はいずれもマウスを用いた。 1)精細胞培養技術の確立:生後10日令の雄マウスより精細胞を取り出し、1-2週間セルトリ細胞を含む精巣細胞と共培養した。この日令のマウスは、まだ精子細胞は発生していないので、培養後に円形精子細胞が観察されれば、これらはすべて体外で発生したものと考えられる。F12培養液にエピネフリンを添加することで、円形精子細胞が発生した。これらは、未受精卵子へ注入することにより、1Nの半数体染色体を観察することにより確認できた。よって、少なくとも第一減数分裂と第二減数分裂を連続的に体外で進ませることが可能になった。 2)一次精母細胞による顕微授精技術の開発:a)四倍体の一次精母細胞核を未受精卵に注入し、時間をおいて卵子を発生させることにより、染色体を1/2にする。これを取り出し、同じことをもう一度行うことにより、染色体を1/4(すなわち精子と同じ半数体)にし、胚として発生させた。あるいは、b)同じ四倍体である卵母細胞と授精させ、減数分裂を終了させることにより、胚として発生させた。前者の方法は、染色体の形態的ダメ-ジがあったが、後者の方法では、正常な二倍体胚を得られることが明らかになった。しかし、胚盤胞まで発生した胚を偽妊娠マウスへ移植したが、産子は得られなかった。以上から、減数分裂前の一次精母細胞も顕微授精に用いられることが示された。
|