研究概要 |
本研究は,力学条件が明確に設定できる歯科矯正治療に着目し,歯槽骨リモデリング機構を理解するための基本量の一つである歯槽骨吸収速度が,歯の種類によらず一定であるという申請者らの仮説を生体力学的手法を用いて検証することを目的とした.解析対象とする歯をこれまでの犬歯のみから犬歯と臼歯を含めた歯列に拡げ,新たな有限要素モデルを構築し,既に開発した解析方法を適用した.歯の移動速度は,矯正力の大きさと比例関係にあるとの仮定の下に,様々な矯正力や矯正装置などの力学条件下での有限要素解析により得られた応力値と臨床床計測により得られた歯の移動速度の関係を対応付けて歯槽骨吸収速度を推定した.その結果.これまでの解析範囲内では,矯正装置や対象とする歯の種類によらず,歯槽骨吸収速度は0.5μm/(kPa・day)の一定値であることを確認した.これにより,従来の歯冠部での矯正力と移動量の関係で議論した研究や歯根部の応力が一様に分布していると仮定して歯冠部での矯正力を歯根部の投影面積で除した応力値と歯冠部移動量とを関連付けて議論している研究に比べ,より精確にその値を明らかにできた.これより,歯の移動原理のより本質的で,定量的な議論が可能になったといえる.しかし,歯の移動を引き起こす骨吸収の担い手である破骨細胞にとって最適な歯根部応力が存在するという考えもある.そのため,細胞レベルでのミクロな解析も行い.歯の移動の原因である破骨細胞の応力依存性を検討した.その結果,圧迫側歯根膜外周部における最小主応力が-40kPa程度の部位に破骨細胞が特異的に存在し,この付近が破骨細胞存在の最適応力であることが示唆された.今後は,以上のマクロ的な解析結果とミクロ的な解析結果を対応づけ,より詳細に歯槽骨吸収速度について検討する必要がある.
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