研究概要 |
エンドセリン(ET)は,心筋梗塞や心不全など循環器疾患の発症に密接にかかわっている内因性因子として注目されている.申請者らは,ET-1によって惹起される冠血管収縮作用は老化により著明に増強されること,ET-1によるプロスタサイクリン産生は不変だが,NO様物質の産生・遊離機能が老化によって著明に低下すること,この低下が老化によるET-1の作用増強に寄与しており,血管内皮細胞機能の加齢変化が,加齢に伴う循環器疾患増加の一因であることを見いだした.一方心筋細胞において,ET-1受容体は,若齢ないし成熟ラット心筋組織に比し,老化心筋において著明に増加していることを明らかにした(平成8年度).本年度は,老化心筋でみられたET受容体のUp regulationとその病態生理学的意義を明らかにすること目的に,ET受容体のサブタイプ(ET_A,ET_B)遺伝子発現の加齢変化および心筋収縮力に対するET-1反応性の加齢変化について検討した.その結果,1)ET-1は,ラット心筋に対し陽性変力作用を惹起すること,この陽性変力作用は老化により著明に低下すること.2)ET-1によって惹起される陽性変力作用はET_A受容体の選択的拮抗薬によりほぼ完全に遮断され,ET_B受容体の選択的拮抗薬ではほとんど影響を受けないことから,ET-1による陽性変力作用は主としてETAを介すること.3)ET-1によって惹起される陽性変力作用は,筋小胞体へのCa^<2+>取り込み阻害薬によって著明に抑制されること,4)RT-PCRおよびノーザンブロッティングによって測定したET_A,ET_B受容体遺伝子発現には加齢差は認められないこと,以上が平成9年度の研究により明らかになった.したがって,老齢ラットにおいてみられたET受容体Bmaxの増加は転写レベルの亢進によるものではないことが示唆された.ET受容体の増加にもかかわらず老齢ラット心筋においてET-1反応性が低下する原因としては,心筋収縮に関与しないETB受容体サブタイプだけが増加している可能性は低いと考えられる.老齢ラット心筋においてはET-1によるSRのCa^<++>取り込み・放出が若齢ラットに比較して低下しているために陽性変力作用が減弱し,その結果として,ET受容体の適応性増加が起こっている可能性が示唆された.
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