研究概要 |
G蛋白質は、GDP/GTP結合活性とGTPをGDPに加水分解する活性(GTPase活性)を有する一群の蛋白質である。神経組織は細胞間の情報伝達がその主な機能であるので、種々の情報伝達系がもっとも発達した組織であり、G蛋白質がもっとも高濃度に存在する組織である。神経組織にその存在が報告されているG蛋白質には、Gs,Gil,Gi2,Gol,Go2,Gq familyなどがある。神経組織又は神経性細胞においてG蛋白質を介して引き起こされる細胞応答は、アデニリルシクラーゼの活性化や抑制、ホスホリパーゼCの活性化や抑制、K^+チャネルの活性化、Ca^<2+>チャネルの抑制などが知られている。なかでも一部のG蛋白質が神経成長やシナプス形成と関連すること、さらに記憶という脳高次機能への関与の可能性が示唆されている。先に我々は、ラット大脳皮質のGiα,Goα,GqαおよびGβ蛋白質量は生理的老化で変化しないことを報告した。そこで今回は、脳内G蛋白質mRNA発現の加齢に伴う変化をマウスおよびラットで比較検討した。本研究では、3,12および24か月齢の雄性ddy系マウスおよび3,6および24か月齢の雄性Wistar系ラットを使用した。マウスおよびラット大脳皮質において、加齢に伴う総RNA量/組織重量に有意な変化は認められなかった。マウスおよびラット大脳皮質では、Gsαおよびβ-actin mRNAが検出された。マウス大脳皮質の加齢に伴うGsα mRNAおよびβ-actin mRNAの変化を検討したところ、両mRNA量の発現レベルは加齢とともに増大していた。しかし、ラット大脳皮質のGsα mRNAおよびβ-actin mRNA量の発現レベルに加齢変化は認められなかった。これらの成績から、生理的加齢に伴う脳内Gsα蛋白質の遺伝子発現は、動物の種差により著しく異なった挙動を示していることが明らかとなった。蛋白質発現との関係を含め、脳内に特異的にかつ高濃度存在するGoα発現と加齢との関連は今後の課題である。
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