研究概要 |
アミロイド・ベータ蛋白質前駆体(amyloid beta rpotein precursor APP)は老化脳にみられるアミロイド斑の主構成要素であり,同時にヘパラン硫酸プロテオグリカン(heparan sulfate proteoglycan HSPG)のコア蛋白であることが示されている.したがって,老化脳にみられる異常蛋白とHSPGを中心とした5種のプロテオグリカン(PGs)に関連した抗原性について検討した. 検索対象は,48例の非痴呆患者の剖検脳と一例のアルツハイマー病の海馬,海馬傍回を含む側頭葉部を用い,抗ヘパラン硫酸プロテオグリカン,抗デルマタン硫酸プロテオグリカン,抗コンドロイチン硫酸プロテオグリカン,および2種の抗プロテオグリカン・消化抗原・抗体で老化脳の免疫染色性について検索した.(脳の老化)で出現する老人斑-neuritic plaques(NPs)および神経原線維変化-neurofibrillary tangles(NFTs)での免疫染色性では,抗-HSPG-抗体が一般に強く陽性を示したが,他の4種の抗体についても陽性に観察された.Neuronに関しては,検討した抗体全てにおいて,免疫染色陽性がみられた.グリア細胞と細胞外基質については,HSPG以外の抗体で抗原性が認識された.脳内血管については,amyloid-depositsを含まない血管,主に毛細血管で抗-HSPG-抗体との反応性が顕著にみられ,しかし,他の4種類の抗体ではamyloid-depositsを含む血管でのみ陽性を示した.つまり,HSPGは正常血管の通常成分(common component)として証明された.HSPGに関する限り文献的にも同一の成績であった. 本研究で明らかになったことは,HSPG以外のプロテオグリカンの発現も脳の老化と深く関わることが示された.Neuronやglial cellに複数のPGsの蓄積をみたことは,PGsが単独ではなくグループの形で脳の老化に与り,生体蛋白として老化脳に存在するベータ蛋白やタウ蛋白と親和性をもち,neuronの変性,消失,NPs,NFTsの形態に至る過程を意味すると考える.以上の諸結果を正常老化脳とアルツハイマー病の脳とで比較すると両者の間には免疫染色の強度の点で形態学的な差異は認められなかった.
|