研究概要 |
大脳皮質シナプスにおけるアセチルコリン合成活性やそのレベルには加齢変化はないものの、脱分極刺激によるアセチルコリン放出が老齢シナプスにおいて低下することが種の違いを超えて認められた。この老齢シナプスにおけるアセチルコリン放出低下は、放出のトリガーとなるカルシウムイオン流入低下によることがカルシウムイオン蛍光指示薬を用いた実験で明らかとなったため,シナプスにおける電位依存性カルシウムチャネル(VDCC)の加齢変化を調べることを目的とした。大脳皮質シナプス膜のVDCCサブタイプの分布を各サブタイプに特異的なブロッカーを用いて調べたところ、L型チャネルが27%,N型チャネルが32%,P型チャネルが27%,Q型チャネルが23%であった。個体の老化によってP型チャネルの分布は全VDCCの16%となり,成熟期のラットに比べて著しく減少していた。さらに,シナプス膜への放射標識ブロッカーの結合実験によって,VDCC密度の加齢変化を検討した。その結果,25ヶ月齢では、L型,N型,Q型チャネルのBmax値,すなわち最大結合サイト数が6ヶ月齢に比べそれぞれ50%,35%,52%と顕著に減少していた。このVDCC密度の減少が、カルシウムイオン流入低下の直接の要因となっていることが推察された。また,L型チャネルブロッカー結合に対するKd値が老齢シナプスで成熟動物シナプスに比べて大きな値を示すことが認められた。この結果は、L型チャネルのブロッカーを結合するサブユニット(おそらく、α1サブユニット)の加齢による構造変化を反映している可能性を示唆していると思われる。以上,本研究の結果から、大脳皮質コリン作動性シナプスにおけるアセチルコリン放出低下とそれに伴うシナプス可塑性の加齢低下の根底には、電位依存性カルシウムチャネルの分布や密度の異常が関与していることが強く示唆された。
|