研究概要 |
9個の白・黒の正方形(□,■)で作られた無意味な図柄の,■の数を数えるという偶発学習を披験者に行わせ,その2,3カ月後,間接再認課題を行うと,以前に呈示された図柄と呈示されなかった図柄を,被験者が無自覚的に弁別するという,驚くべき事実が昨年度までに確認された.本年度,この現象の再現性の検討に加え,パターン情報に色情報を組み合わせた刺激を作成し,より複雑な視覚情報を人間が長期に保持するか否かを実験的に検討した.非常に複雑な色パターン刺激を,実験条件に合わせて個人ごとに出力するためのプログラム開発に困難をきたしたが,購入したカラーレーザープリンターを用いて実験材料を作成し,約600人の被験者を対象に実験を実施した.実験1では,赤と青を色として,色の一致・不一致,および学習時に呈示されたか否かにより条件を統制した.インターバルは2カ月であった.実験の結果,学習時に呈示されたパターンで,なおかつ色も同じであった刺激に対する虚再認率が,学習時に呈示されなかったパターンのそれよりも有意に高くなることが明らかとなった.さらに,色が一致しない条件の虚再認率が,無学習と一致条件の間に落ちることが示された.実験2では,黄色と青を用いて同様の実験を実施した結果,今回はヒット率について実験1と同様の現象が観察された.長期的な効果が得られた指標が実験1と違う点は非常に興味深い.実験3では,赤,青,緑,黒を用い,先行学習の効果に与える色の効果を検討した.この実験では,色の効果は認められたが,長期的な学習効果に影響を与える色の効果は検出されなかった.一連の実験で,人間が無意味なパターン情報を少なくとも2カ月保持することはほぼ確実といえる.さらに,色情報が加わった複雑な色パターン情報についても,それを人間が長期に保持する可能性は極めて高いといえる.今後,色の波長と長期記憶に関する研究に新しい展開が見込める可能性が高い.
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