1996年7月に堺市で発生したO-157による集団食中毒事件は、事件の重要性と曖昧さという流言発生の条件を満たす出来事でもあった。そこで、この事件を題材にして現代社会における流言の特質を探るため、1997年8月に滋賀大学卒業生1200人を対象にして郵送調査を実施した。回収率は56.8%。この調査研究から得られた知見は以下の7点にまとめられる。 (1) 曖昧な状況と集合的興奮は解釈流言を発生させやすい。 (2) 解決流言は自我包絡度の高い人々の間に発生しやすい。 (3) 一般的に言って男性よりも女性の方が流言をよく知っており、またそれを信じているが、流言のテーマによって、どのような属性の人々が流言の担い手になりやすいかは異なる。 (4) 教師という職業属性は、流言を押し止どめる批判能力の指標にはならない。 (5) 言説内容が民俗的知識と一致するものであればあるほど人々はそれを信じるし、そうした言説は流言になりやすい。 (6) マスメディアで報じられないまま潜在的に広まる流言が存在する。 (7) 情報化が進んだ現代社会において、流言は収斂的に終息するというよりも拡散的に終息する傾向がある。 ただし、今回の知見は、(1)調査対象者が地方国立大学の卒業生に限られていること(2)事件発生後1年を経過した時点でのものであり忘却や思い違いで回答が不正確になった可能性があること、という二つのバイヤスのため、仮説的なものに止まらざるを得ない。
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