本年度は、英字新聞the Asian Wall Street Journal及びタイの英字新聞the Nationなどを中心にして、タイの金融危機とそれがタイ経済に与えた影響に関する情報を収集した。本年度の研究で明らかになった点を以下に整理する。タイの華人系企業家は人間関係を通じたネットワークを構築し、それをビジネスの効率化に役立ててきた。この華人ネットワークは、東アジア諸国が急速な経済成長を実現した90年代前半までは、同地域の経済成長の原動力の一つであると指摘され、高く評価されてきた。 しかしながら、97年のバーツ切り下げに始まったアジア通貨危機によって、この華人ネットワークに対する評価を改める必要が生じた。つまり信頼関係に基づいた取引は、市場メカニズムの効率性を高める機能と同時に、他方で、市場メカニズムを損なう可能性をも持ち合わせているということを、このタイの金融危機が示したのである。 タイの金融危機の中心には、民間金融機関の不良債権問題がある。この不良債権問題の悪化は、金融の自由化が進められた結果、商業銀行を通じてタイ国内に海外から短期資本が流入し、それが株式市場や不動産業への投資に使われたことに起因する。これがタイバーツに対する信頼を低下させ、アジア金融危機の引き金となった。 この不良債権問題を、企業家のネットワークという観点から見ると、ネットワークが、資金の適切な配分を妨げた、つまり、市場メカニズムが有効に機能することを妨げたといえる。タイの場合は、銀行が顧客に貸し出しを行う際に、信頼関係や人間関係が比較的大きな役割を果たし、顧客のプロジェクトのリスクを調査するという手続きが軽視され、不良
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