研究概要 |
本研究の目的はサファイア上に堆積された高品質GaN薄膜、InGaN/GaN単一量子井戸及びInGaN/InGaN多重量子井戸構造における励起子の性質とその光学的非線形性に及ぼす効果を調べることにあった。はじめに、研究コミュニティーからの要請により若干目的に変更が生じたことをお詫びしておく。研究実績は以下の通りである。 1.Gan:0.83μm単結晶試料の10K-300Kにおける透過率・反射率の精密測定を行い、基礎吸収端近傍で吸収係数が1×105cm-1であることを見出した。この試料と4μmの試料で、Xeランプとガラスフィルタを組み合わせて得た3.3eV以上の白色スペクトルにより超弱励起PL測定を実施した。A,B励起子の完全分離、均一線幅の同定、A,B励起子第一励起状態からの発光同定ができた。更に膜厚変化に伴う残留歪による励起子発光ピークのシフト、欠陥密度の変化に起因すると思われる束縛励起子発光強度の変化等を見出した。吸収係数の絶対値が大きいことから、基礎吸収端でのポンプ・プローブ(P&P)法による透過率測定は満足のいく結果が得られなかったので、現在測定した吸収係数だけをもとにした光双安定性の計算を実行している最中である。ナノ秒P&P法では、吸収端より長波長側で、光照射後の比較的長い時定数を持つ屈折率変化を見出し、GaNの可変屈折率素子としての可能性を示唆した。 2.InGaN単一・多重量子井戸:これら試料における最近の話題はピエゾ電場効果と混晶中のポテンシャル揺動に集中している。観測される電子系は両者の競合で決まっており、個々の効果の分離が難しい。本研究ではSiを高濃度に添加することで前者の効果をほぼゼロに抑制した試料を2つ成長条件を変えて作製し後者の効果の有無を調べた。結果はポテンシャル揺動が明らかに存在することを示した。これが無添加試料において励起子を局在させる一因であると考えられる。これらの試料でのゲインスペクトルを求めた結果、それは電子正孔プラズマモデルで説明できる一方で、如実にポテンシャル揺動を反映している事実を見出した。ポテンシャル揺動が弱い試料でアップ・コンバージョン法により蛍光の立ち上がり時間を測定した結果、それは60fs以下であることを見出した。n型試料でありかつ正孔・LOフォノン散乱が無視できる様にした励起波長での比較的弱励起条件下での結果であることから、実験結果は正孔が電子・正孔散乱により余剰エネルギーを冷たい電子へ移行して速やかに緩和することを反映したものと考えている。InGaN系における光励起正孔の初期緩和に関する研究はこれが始めてであることを付記しておく。
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