研究概要 |
原始太陽系の星雲ガスとダストとの相互作用を調べるために,衝撃波管を用いた流体力学的実験を行った.昨年度は衝撃波管を設計・製作し,その装置を用いて多孔質ダストの抵抗計数やその変形について詳しく調べた.本年度は低温下での揮発性物質の摩擦加熱・蒸発を調べるため衝撃波管の改良を行い,実験を実施した。 揮発性物質の試料にはドライアイスの薄膜(>1μm)を用いた.その薄膜は,液体窒素により冷却したクライオスタット(温度-150〜-170℃)上のアルミ板に作成した.この薄膜に高速の気流(アルゴンガス)を衝突させ,蒸発量を求めた.衝突気流の速度は900〜1000m/sであり,その圧力は6000Paであった.蒸発したドライアイス量の測定は波長2.7μmでの赤外発光強度を観測することにより行った.検出器はPbSe(立ち上がり50μs以下)であり,半値幅0.1μmのバンドパスフィルターを用いて分光を行った. ドライアイスの薄膜は高速気流がぶつかるとその表面で摩擦熱が発生し,その熱により蒸発が起こると思われる.確かに実験の結果ドライアイスの蒸発によると思われる赤外発光を観測することができた.そしてこの観測された赤外発光強度から薄膜表面での気流衝突による上昇温度を見積もると8K以下となった.この表面温度の上昇はアルミ板衝突によるアルゴンガスの温度上昇(4000K)と較べると遙かに小さいことがわかる.ドライアイスを蒸発させる熱源としては,摩擦熱・衝突ガスからの熱伝達(輻射・伝導・対流)があるが,それらの熱はドライアイスの潜熱として消費され,ほとんどその表面温度を上げないことを示している. 二年間の研究により星間塵と星雲ガスの相互作用を調べるための装置開発と実験技術との蓄積を行うことができた.またこの衝撃波管を用いた実験における技術的課題や可能性も明らかになった.
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