研究概要 |
本年度、次の様に研究を進め、次の内容を明らかにした。 [Ni(s2c2Ph)2]型のメタラジチオレン型錯体の光照射により、溶媒の核スピンに異常な分極が生成されることを見いだした。この核スピン分極は光照射を停止した後にも、数十分の時間スケールで観測される。この様な核スピン分極は従来型のラジカル対機構に基づく理論では解釈不可能である。 [Ni(s2c2Ph)2]型のメタラジチオレン型錯体のS,S'誘導体に於いて、溶媒分子に核スピン分極が生成していることが観測されてきたが、その原料である錯体においても同様の分極が観測された。しかしながら、この核スピン分極は誘導体におけるものと比較して光照射停止後の核スピン分極の観測時間が数分と短くなる。 これらの核スピン分極の生成の原因としては、錯体の光照射により安定な常磁性種の存在が考えられる。定常的な電子スピン共鳴の測定に於いては、その常磁性種の存在を捕まえることは出来なかったが、時間分解ESR測定に於いて電子スピン分極の安定ラジカル(TEMPOL)へ移動していることを見いだした。これらの結果より光励起により生成した常磁性種に於いて生成した電子スピンが、溶媒の核スピンへ移動した可能性が最も高いと思われる。 核スピン分極の生成メカニズムに関して完全に明らかにすることは出来なかったが、メタラジチオレン型錯体の特殊な電子構造に起因するものと考えられ、その構造の解明が核スピン分極の生成機構を議論する上で今後重要である。
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