研究概要 |
1.オクタシタキュバンの光分解によるヘキサシラベンゼン誘導体の創製を試みた。オクタテキシルオクタシタキュバン(1)およびオクタキス(tert-ブチルジメチルシリル)オクタシタキュバン(2)に,低温(77K)にて紫外光を照射すると,1では704nmに,2では685nmに強い吸収が出現した。ESRスペトルにおいてシグナルは全く観測されなかったことから,これらの吸収はラジカル中間体によるものではなく,ヘキサシラベンゼンのようなケイ素-ケイ素不飽和化学種に起因すると結論された。しかし,ジシレン(エテンのケイ素類縁体)と良く反応するアルコールや2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンでは,ヘキサシラベンゼンに対応するトラップ反応生成物を得ることはできなかった。この結果は,ケイ素-ケイ素π共役化合物の反応性が孤立ケイ素-ケイ素二重結合化合物とは全く異なることを示唆する。なお,上記吸収を示す化学種は低温(-70℃付近)においても酸素とは爆発的に反応する。現在,この化学種を,クロムカルボニルや鉄カルボニルなどの遷移金属錯体との配列を利用して、安定化させることを試みている。2.関連研究として以下の知見を得た。(1)オクタシラキュバン1のジメチルスルホキシドを酸化剤とする光酸化によって、新規含酸素多面体ポリシランであるオキサオクタシラホモキュバンとジオキサオクタシラビスホモキュバンを得た。これらのホモキュバン誘導体の光分解によるケイ素-ケイ素π共役化学種の生成は今後の課題である。(2)ドデカイソプロピルトリシクロ[4.2.0.0^<2,5>]オクタシランのsyn体は200℃付近でanti体へ異性化するが,その異性化の活性化エネルギー(42.3kcal/mol)は炭素類縁体のそれ(31.4kcal/mol)よりも大きいことがわかった。なお,anti体は230℃付近で1,5-シクロオクタシラオクタジエンに異性化するとの予備的知見を得た。(3)9,10-ジ-tert-ブチル-9,10-ジヒドロ-9,10-ジシラアントラセンから誘導されるシリルラジカルはかなり安定であることがわかり,含ケイ素芳香族分子である9,10-ジシラアントラセン誘導体創製の可能性が強まった。
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