研究概要 |
我々は、有機強磁性体研究で注目を集めているピリジルニトロニルニトロキサイド(PYNN)についてN-プロトン化を試みた。HBrとの反応により得られたものは(PYNN)_2HBrなる組成のもので、〔NHN〕^+分子間水素結合がピリジン環の間に形成されることを見いだした。このように、きわめて裸に近いプロトンが有機ラジカル結晶中に存在する例は、我々が知る限りこれが初めてである。 本研究ではこの系を拡張して、PYNNと、ヒドロキノン(HQ),フマル酸(FA),四角酸(SA)との錯体合成を行った。得られた分子間化合物は、いずれも(PYNN)_2X(X=HQ,FA,SA)なる組成のもので、有機酸がPYNNを架橋する構造をとっている。しかしその結合部位をみると、HQはPYNNのNO基を架橋するのに対して、FAとSAはPYNNのピリジン環を架橋している。しかも、FAは中性であるのに対して、SAは2個のプロトンを失いダイアニオンの状態にあることが分かった。酸の強さにより、得られてくる分子間化合物の結合状態が順次変化することが分かった。これは酸による分子部位認識とも呼べる現象で、水素結合を基本として新しい構造の構築を目指す、超分子化学に多大な影響を与えるものと思われる。
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