研究概要 |
金属錯体触媒の分野は今,高活性,高選択性を追求する研究から,機能性触媒の開発へと研究のフロンティアが変わろうとしている.これに応じて,新概念に基づいた触媒設計の必要性が生まれてくる.申請者は,フラーレンの特異な電子構造,適度な大きさ,および三次元的な空間の広がりが機能性配位子を設計する上での基盤として適していると考え,これを目指したフラーレンの化学修飾の研究に着手した.そして様々な検討の結果,有機銅試薬のC_<60>への付加反応において,五つのフェニル基が一つの五員環の廻りを取り囲むように位置選択的に連続付加し,C_S対称のシクロペンタジエン型置換体C_<60>Ph_5Hが定量的な収率で得られることを発見,さらに,LiOtBu,KOtBu,TlOEt及びCuOtBu(PEt_3)によって脱プロトン化することにより対応するシクロペンタジエニル型η_5-フラーレン金属錯体を合成した.中でもタリウム錯体についてはX線結晶構造解析にも成功し,C_5対称の構造を確認した(文献1). フラーレンがその球状表面の5角形の部分でη^5-配位する他に類を見ない特異な構造を有するこれらの金属錯体は,予想される主な特徴として,「幅広い金属に対する強い配位力」,「フラーレン部位の可逆的電子受容能および光励起能」,「50π系ポリオレフィン部位とCp部位との間のフラーレンケージ内部空間を通した電子的相互作用」,および「Cp部位を取り囲む5つの置換基により,Cp環を底とする深いすり鉢状の空間が形成される点」などが挙げられ,機能性配位子として要求される性質を備えている.
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