研究概要 |
近代の生体運動研究の成果によれば、筋肉系、非筋肉系運動機構はそれぞれ現象としては特徴ある働きを示すものの、その素過程は統一して考えるべきと考えられ始めている。筆者はこのような立場から非筋肉運動系の一つである色素細胞メラノソーム運動の研究を始めた。筆者は実験に最も適した材料を知るため多くの両生類体表面、魚類血管壁に存在する黒色素細胞、鱗上に依存する黒色素細胞を調べた。その結果ある種の魚では色素細胞が摘出した鱗上で上皮に覆われることなく露出し、実験に適していることを見出した。この材料を用いメラノソーム運動の基本的性質を調べた。まずサポニン系の物質、バクテリア産生毒素などを用い細胞膜を部分的に溶解するか、細胞膜に微小な分子レベルの穴を開け実験液が容易に細胞内に透過する細胞(膜破壊細胞)を作り出した。メラノソーム運動はビデオにより撮影録画し、再生に際しその動きを解析した。intactな細胞ではメラノソームの凝集はアドレナリン、ノルアドレナリン、メラトニンなどの神経分泌物質で起こり、拡散は生理塩類溶液、アデノシンで起こるが、それとほぼ同様の運動を膜破壊細胞でも再現する事ができた。すなわち凝集はATP,微量Caイオンによりおこり、拡散はATP,cyclicAMPにより起こる事を示した。また凝集速度は2.0-2.5μm/s,拡散速度は1.5-2.0μm/sであり異なる事も示した。またメラノソームの動きを高倍率(対物レンズ×100倍)で観察すると、各メラノソームはブラウン運動をしており、ノルアドレナリン投与により一次元的熱運動の振幅が大きくなら、その後細胞中心に向かい移動する事を発見した。メラノソームの熱運動を観察したのは筆者が初めてであり、今後レーザピンセットを用いて実験を継続する予定である。本研究により期待したとおり、色素細胞は生体運動エネルギー変換研究の材料として非常に適している事を見出し、萌芽研究の趣旨に合致していると感じている。
|