研究概要 |
1. 研究の目的 建築史上重要な近代建築物は、都市の原風景や記憶装置として大変重要なもので、保存計画の立案により地域特性や歴史性を考慮した環境に再構成することは、その土地のアイデンティティを更に高めることになり都市環境の醸成に寄与することとなる。そこで都心部に建つ近代建築物の保存計画を立案し、空中権や開発権移転(TDR)等の手法に学びつつ、保存・保全手法の具体的方法論確立を目指すことが、本研究の目的である。 2. 研究方法 昨年迄の研究では、該当する近代建築物を取り上げ建築概要をリストアップし、開発権移転に対して、地区特性・建物特性を理解してその移転手法を街区内・街区外に限って検討してきた。平成10年度の研究では、該当する建物の歴史的重要性・機能性・将来性・保存後の維持について現地調査を行った上でどの項目が重要であるかを評価判断をして、開発権移転の方法、可能性についての詳細な検討を行った。 3. 研究の展開と分析 現地調査の内容としてデザイン意匠・歴史的重要性・機能性・将来性・保存後の維持の5項目を中心として考え、調査を行った。調査対象の近代建築物が竣工後どのような経緯を経て現在に至ったか、又近年補修工事が行われ保存していこうとする姿勢かあるか。一方、文化財として指定を受け市民に開放されたり、隣接する建物と一体となり部分的な保存や再開発を行っているか等を調査した。この様に建物の状況・地区状況・街区状況・未利用容積部分の分析から移転の様々な可能性について次のようなことが言えることを理解した。 (1) 対象近代建築物の敷地面積に余裕がある時及び建物が位置する街区敷地面積が大きければ、街区内での移転が可能である。(手法:I(街区内移転),III(街区内分散移転),V(両街区分散移転(1)),VII(両街区分散移転(3)) (2) 街区内での未利用容積率が大きければ街区内での移転が可能である。(手法:I(街区内移転),III(街区内分散移転),V(両街区分散移転(1)),VII(両街区分散移転(3)) (3) (1)・(2)以外の場合、即ち街区内での移転が困難な場合、街区外への移転手法とする。(手法:II(街区外移転),IV(街区外分散移転),VI(両街区分散移転(2)),VII(両街区分散移転(3),VIII(両街区分散移転(4)) 4. 研究の結果・考察及び今後の課題 近代建築物の未利用容積部分をどこに移転してその保存・保全を図るかは敷地特性・地区特性・街区の在り方を鑑みて検討されるべきであり、今回移転手法の検討を通してどの様な移転手法がその近代建築物に適応できるかの基礎資料を得ることできた。今後は都市開発での高度化促進方策としてどの様な分散移転の手法が望ましいか、又どの程度の移転距離が得策かを更に検討していく必要があるといえ、地区計画制度の運用・改善を通して近代建築の保存と共に都市空間の有効な利用方法を模索していくことか課題といえる。
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