研究概要 |
高温焼結、ゾル-ゲル法,水溶液からの析出などの一般的な方法とは異なる手法により、従来の平衡状態図上には現れない化合物を作製することを試みた。固体電解質酸素ポンプを用いて酸素分圧を一定に制御した雰囲気の中でCeO_2-ZrO_2(x_<Ce>/x_<Zr>=1)の正方晶t'相を還元してパイロクロア相(Ce_2Zr_2O_7,pyro)を作製した。その後873Kで酸化することにより新規な相であるκ相(CeZrO_4,κ)を作ることに成功した。1373K、O_2ガス中で焼鈍することによりκ相は別の新規な相である正方晶(CeZrO_4,t^*相)に変化した。このt^*相を還元してpyro相にし、さらに酸化してκ相、さらに焼鈍してt^*相を作製する操作を繰り返したとき、得られたκ相およびt^*相の昇温脱酸素ガス実験により評価される化学的安定性は酸素分圧、温度などの履歴により種々に変化した。κ相およびt^*相の各相に種々の化学的性質を有するものが出現するのは、陽イオンおよび陰イオンに微妙なシフトが存在するためであることがレーザーラマン分光分析により明らかになった。 t′,t^*,κの各相とパイロクロア相を共存したときの酸素分圧(P_<O2>を測定し、t′,t^*,κ各相の熱化学的安定性を評価した。κ相のP_<O2>は900℃より高温では時間とともに減少し、κ相は熱力学的にもっとも不安定であったが、事実上900℃までは安定に存在できた。κ相の陽イオンはパイロクロアのように規則配列をとるが、対称性はFd3mより低い。t′,t^*の場合のP_<O2>の温度依存性は1000℃近傍で変化し、t′【double arrow】t^*相変態が存在することが分かった。t^*相の陽イオンはt′相と同様に不規則配列であるが、酸素イオンのシフトがt′とは微妙に異なることがX線回折、レーザーラマン分光分析から明らかになった。本研究により、平衡状態図において化合物が存在しない系においても、実際上は高温まで安定な種々の準安定相を化学ポンテシャルの履歴制御により作製できることが明らかになった。
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