研究概要 |
超好熱菌(Hyperthermophilic archaea)はその生育環境の特殊性から原始生命体に最も近い生物と考えられている。我々は鹿児島県小宝島より超好熱菌Pyrococcus属KOD1株を分離し、そのゲノムの大きさ(2036 kb)が大腸菌のゲノムサイズ(4,700 kbp)の半分以下であり、遺伝情報の高密度な濃縮が起こっていることを明らかにした。さらにKOD1株の遺伝子の推定アミノ酸配列を既知の遺伝子と比較検討したところ、転写、翻訳といった遺伝子発現の根幹をなす遺伝、蛋白質群は真核生物と高い相同性が認められた。 KOD1株のRNA合成酵素のサブユニット構造は原核生物のタイプ(α、β、β‘σ)とは異なり、真核生物の酵素のように10種類以上の複雑なサブユニットで成りたっていた。翻訳に関与するアミノアシルtRNA合成酵素も活性に関与する領域は真核生物の酵素と高い相同性を示した。蛋白質安定化因子でもある分子シャペロニンなども真核生物のカウンターパートであるTCP-1(t-complex polypeptide-1)と酷似していた。このように超好熱菌の生命活動の根幹は真核生物型酵素・蛋白質でなされていると思われる。一方、ABCファミリーなどの膜透過系酵素やアミノ酸合成系・エネルギー代謝系の酵素などで細菌型酵素の特徴が確認された。例えばアンモニア同化系の中心的な酵素であるグルタミン合成酵素(GS),グルタミン酸脱水素酵素(GDH)は細菌の酵素と類似した一次構造を有していた。特に、KOD1株のGDH,GSはそれぞれ6量体、12量体を構成し、高次構造的にも細菌型が保存されていた。KOD1株から精製された2種類のアミラーゼは、いずれも細菌型アミラーゼの保存配列を有していた。その他、細菌に特徴的なビタミンB12の合成に関与する酵素であるコビル酸合成酵素の遺伝子もKOD1株から取得された。
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