研究概要 |
本研究は、近い将来間違いなく起こるエネルギー不足の問題に対して、生物が行っているような、等温下での化学エネルギーから機械的エネルギーへの高効率直接変換を提案し、その実現に向けての独創的基礎研究を目的とした。 具体的には、過去2年に渡って以下のような研究を行い、成果を得た。 1.油水二相系において界面活性剤存在下で溶質濃度を非平衡にした状態(化学エネルギー)からの機械的エネルギーへの変換に関する研究を行った。この系に於いて鏡像対称性を持つアルミニウム製の風車を用い、羽根と羽根の間に油と水とを交互に入れると、指定した一方向への回転運動を作り出すことが出来、トルク的な回転力として取り出すことに成功した。 2.樟脳結晶を気水界面に静置すると、界面張力の空間的な不均一性を駆動力として回転運動や直線的な運動を生じる。我々は樟脳結晶の幾何学的形状の対称性を変えることで、一方向の回転運動を取り出すことに成功した。 3.興奮場媒質上での化学反応波の伝播特性を用いたロジック演算の実現に向けて、実験、理論、そして数値解析の各方面から研究を行った。その結果、媒質の空間対称性を破ると、波の伝播方向に関する対称性が破れ、ダイオード特性が現れる事が分かった。また、媒質の空間形状により、AND,OR,NOTのロジック演算が可能であることが数値解析と実験の両面から確認された。さらに、この興奮場を使った演算では、従来にはないような時空間上の並列演算が可能であることが示唆されている。このような研究の成果は、これまでのノイマン型計算機の枠組みを超え、より生物に近い計算機を実現する可能性を示したものとして、その意義は大きいと思われる。
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