研究概要 |
マツ属は,心材時にピノシルビン誘導体等のスチルベン化合物が蓄積することはよく知られている.そこで,樹幹のエイジングに関わる遺伝子としてマツのスチルベン合成酵素遺伝子(sts)に的を絞った.まず,マツゲノムからPCRにより,この遺伝子のクローニングを試みた.PCRによる増幅条件を検討した結果,0.2マイクログラムという少量のゲノムDNAからも予測される断片長のバンドが増幅された.このPCR断片をクローニングすることなく塩基配列決定した結果,バンドにはstsが複数個存在することが示唆された.また,サザン解析の結果もこれを支持した.そこで,PCR産物をサブクローニングして異なるstsを探したところ,2つのクローニングが見いだされた.両者は既知のオウシュウアカマツのsts配列に非常に類似しており,stsの活性部位を持っていた.両者は,芽生えではマツの根に特異的に発現していた.半数体由来のゲノムDNAからも両者が得られたことから,両者の関係は,対立遺伝子ではなく,アイソジーンであると結論した.一方,樹幹からmRNAを単離し,逆転写後PCRによりstsの発現を解析したところ,季節特異的発現が予測されると,樹幹中の見かけ上の発現部位は予測される移行材に限られないことなど興味深い知見が得られた.研究課題名の遺伝子獲得には成功したが,樹幹における転写レベルでのsts遺伝子発現の意味を説明する研究がさらに必要となろう.
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