研究概要 |
本研究では,植物および微生物の成長・増殖に対する強磁場の影響を検討した.まず,植物の成長に対する強磁場の影響を検討するために,シロイヌナズナの発芽と芽ばえの成長に対する強磁場(4T;テスラ)の影響を調べた結果,強磁場処理区の発芽率は,対照区に比較して高くなることがわかった.また,強磁場処理区の植物体では,胚軸および根の長さが長くなる現象が観察された.そこで,さらに強い磁場が植物の成長に対する影響を解析するために,5日齢のシロイヌナズナを用いて,根の伸長に対する20Tの強磁場と磁場勾配の作用を解析した.その結果,シロイヌナズナの根の伸長は,20Tの強磁場によっても有意に促進されるが,それに対する磁場勾配の顕著な影響はみとめられないことが明らかになった.このとき,根の重力屈性の発現も強磁場によって促進されることがわかった. 一方,強磁場が微生物の増殖と微生物細胞の形態に及ぼす影響を調べた結果,試験した微生物(大腸菌,枯草菌,酵母,根粒菌)に関して,増殖速度,Viability,細胞の形状,いずれにおいても強磁場の影響は全くみとめられなかった.試験微生物種のうち,大腸菌と根粒菌はグラム陰性細菌,枯草菌はグラム陽性細菌,酵母は真核生物である.このような多様な微生物で同様な結果が得られたことから,4T程度の磁場が微生物の増殖には影響を与えないことには一般性があるものと考えられた. このように,本研究では強磁場(4T,20T)が植物の伸長成長に対して促進的に作用することが明らかになった.また4Tの強磁場は微生物の成長に対して,少なくても顕著な阻害作用を示すことはなかった.これは用いた磁場強度からすると驚くべき生物反応であり,今後のストレス生理学上,大変貴重な発見である.
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