研究概要 |
本研究では,マウス胚で用いられているガラス化法を用いて,未だ開発されていない鳥類の胚の超低温保存を試みた。放卵直後のニワトリ有精卵を10〜12℃で冷蔵保存し,1週間以内に使用した。まず,卵黄膜に包まれた胚を卵黄ごと純水または1Mショ糖液中に浸し,重量の経時的変化から卵黄膜の水の透過性を調べた。その結果,卵黄膜の水透過性は非常に低く,胚を卵黄の中にとどめたままガラス化保存することは不可能であると考えられた。そこで,胚盤葉期の胚の部分のみを卵黄膜にセロハンテープ片を張り付けて切り取り,25℃の室温でエチレングリコール主体のガラス化溶液(EFS40)で処理した後超低温保存を試みた。まず胚細胞の生存性を調べるために,胚をEFS40に1〜60分間浸し,直ちに,あるいは液体窒素で保存後に,0.5Mショ糖添加PBSに2分間浸してガラス化溶液を除去し,PBSに回収した。サンプルから胚細胞をかき取って37℃で10分間トリプシン処理し,トリパンブルーで染色して生存率を調べた。その結果,EFS40 で1〜5分間処理した胚では85%以上の細胞が生存しており,ガラス化保存後も2〜5分間処理区では70〜80%が生存していた。次に,胚の発生能を調べるために,胚を剥離してEFS40 に1〜10分間浸し,直ちに,あるいは液体窒素で保存後にガラス化溶液を除去し,卵黄膜の培地上で37℃で3日間培養して体節形成期までの発育能力を調べた。その結果,2分間処理した胚では50%が体節形成期まで成長した。そこで、2分間処理した胚のガラス化保存を試みたが,胚の発生は認められなかった。ニワトリ胚の超低温保存が可能かどうかについてはさらなる検討が必要である。
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