研究概要 |
有用遺伝子を導入したトランスジェニック寄生虫を作出し、宿主体内の特定部位で安定して有用物質を産生させ、遺伝子治療に代替させることが本研究の究極の目的である。住血吸虫は、虫卵関連遺伝子を優先的に発現させ産卵を継続することから、血管内で有用物質を産生させるトランスジェニック寄生虫の最適のモデルとなる。今年度も、トランスジェニック寄生虫の作出に結びつく多くの成績を得た。 (1) 虫卵関連遺伝子に関する検討 1.有用遺伝子は虫卵関連遺伝子の下流側に導入する為、虫卵関連遺伝子の発現調節機構に関与する遺伝子構造の解析に努めた。2.まず、ゲノムDNAクローン(3.4kbのEcoRIフラグメントを 持つ)をライブラリーから分離、塩基配列を決定した。3.5非翻訳領域(2,336bp)の解析をプライマーエクス テンション法で進めた。翻訳開始部位の上流25bpの位置に転写開始部位の存在が示唆された。 4.転写開始部位から上流の配列よりデリーションミュータントを作出し、CATアッセイで転写活性の測定を行うことを検討している。5.同様に、マンソン住血吸虫(近縁種)のゲノムDNAクローン(3.2kb)を得、配列を決定した。6.日本とマンソンとの交雑実験で産卵が見られることから、両種に共通する因子・配列が発現調節機構として関与しており、極めて強い転写活性を維持している可能性が高い。今後は、両種を比較しながら更に検討を進めていきたい。 (2) 遺伝子導入を試みる為の住血吸虫細胞の培養系の確立に関する検討 1.スポロシスト(感染貝由来)の短期培養系を確立した。この方法を応用してFISH法を試み、我々が見出した虫卵関連遺伝子の遺伝子座位は、第1染色体・短腕部に局在することを明らかにした。既知の雌特異的遺伝子群とは部位が異なった。2.スポロシストの細胞はin vitroで2箇月以上、分裂しながら生存することを再確認した。遺伝子導入を試みる為の培養細胞は、スポロシストから調整することが有望である。
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