研究概要 |
約3ヶ月齢の胎児(2例)の鼻中隔を含む鼻部の組織切片を作製し、鋤鼻器の有無を検索した結果、鼻中隔底部の両側に鋤鼻器の存在を確認した。次に神経細胞および神経内分泌細胞に特異的に発現しているニューロン特異的エノラーゼ(neuron-specific enolase,NSE)、Protein gene Product 9.5(PGP9.5)に対する抗体を用いて免疫染色をおこなった。その結果、鋤鼻器上皮細胞および鋤鼻神経束が免疫陽性を示していた。次に、神経細胞および神経内分泌細胞にのみ.認められるカルシウム結合タンパクであるcalbindin-D28k(CaB)の免疫活性を調べたところ、鋤鼻上皮細呼の多くが免疫陽性であった。さらに、動物の鋤鼻受容細胞に含まれるアデニル酸シクラーゼを抑制するG蛋白Giのαサブユニットに対する抗体Gi-α2で染色したところ、胎児鋤鼻上皮細胞の一部が免疫陽性を示していた。以上の結果は、胎児が情報伝達機能をおこなっている鋤鼻上皮細胞を有している事を示唆するものである。さらに、生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(gonadotropin-releasing horm6ne,GnRH)に対する抗体で免疫染色をおこなったところ、鋤鼻神経束に沿ってみられる細胞が免疫陽性を示した。 成人の鼻中隔粘膜の組織切片を観察したところ、1例から鋤鼻上皮が観察された。鋤鼻上皮細胞の中にPGP95免疫弱陽性を示す細胞が散見され、またGaB抗体に対して中程度の免疫陽性を示す細胞もみられたが、上皮下に太い神経束は観察されなかった。これに加えて、鋤鼻上皮の存在するレベルでの鼻中隔粘膜を観察したところ、PGP9.5またGnRH免疫陽性を示す神経線維が上皮直下に密にみられ、なかには上皮内に貫通しているものも認められた。
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