胎生12、18日および成体のラットより摘出した心室あるいは将来心室となる部分をもちいて、RT-PCR法により、内向き整流特性を示す膜二回貫通型カリウムチャネルの遺伝子であるKir2.1およびKir2.2の膜貫通領域を挟むプローベで、それぞれの遺伝子を検出した。さらに3'-および5'-RACE法により二つの内向き整流特性カリウムチャネルの遺伝子の全配列を決定した。見出された遺伝子はKir2.1およびKir2.2に属するものであった。このうちKir2.1に属するものは、ウサギの心室筋の内向き整流性カリウムチャネルをコードするといわれるRBHIK1の配列と9つのアミノ酸が異なっていた。カエルの未受精卵にこのチャネルを発現させると内向き整流特性を示すK電流が検出され、単一チャネル記録では開口時間の長い25pSのカリウムチャネルが観察され、典型的なKir2.1の性質を示した。このKir2.1のmRNA量は胎生12日より胎生18日の心筋で大きかった。一方、Kir2.2に属するものは、ラットの脳およびマウスの心筋で報告のあった配列と完全に一致し、カエル未受精卵で内向き整流性のK電流を発現させた。このKir2.2のmRNA量も胎生12日より18日にかけてに増大した。したがって、Kir2.2もラット胎仔の心室筋の内向き整流性Kチャネルをコードしていると考えられた。一般に心室筋の静止膜電位は内向き整流性カリウムチャネルによって形成されるが、胎生早期に浅かった心室筋の静止膜電位が、発生につれ深くなるという現象はこれら二つの遺伝子の発現量の変化により説明されるものと考えられる。今後は、実際に内向き整流性Kチャネルを構成する際に、二つの遺伝子がヘテロに配置されるのか、あるいはどちらか一方のみが利用されるのか等について検討する必要がある。
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