研究概要 |
前年度に選別されたWistar系ラットとFischer系ラットを用いて以下の実験を行った。 実験1: 高地肺水腫(HAPE)を想定した、Wister系ラットとFischer系ラットの比較 HAPEは急激に登高した際に発症する重症高山病の一種で,海抜2700mでも発症例がある。ここでは,このHAPEの発症を想定して,Wistatr系ラット(n=7)とFischer系ラット(n=8)について系統差を検討した。方法は,摘出灌流肺標本を用いて.先ず従来の方法によってHPV反応を3回測定した後,低酸素(3%O2)下で灌流量を通常の3倍にして灌流し,20分後の肺の湿重量と乾燥重量(60℃,24時間)を測定した。肺の湿重量(Wet)/乾燥重量(Dry)を肺水腫の指標とした。その結果,HPV反応はWistar>Fischerで今までの結果と一致した。しかし,肺水腫の指標である肺Wet/DryではFischer系ラットの方がやや高値をしめし,両群に差が見られなかった。 実験2: Wistar系ラットとFischer系ラットの高地暴露による反応の違い ここでは,Wistar系ラット(n=24)とFischer系ラット(n=24)の高地暴露による反応の違いを検討した。5週齢の雄ラット2系統について,それぞれ低地(610m,n=12)と高地環境(2500m,n=12)で6週間飼育した。飼育期間中,体重およびヘマトクリットを経時的に測定し,飼育期間終了時に肺動脈圧(Ppa),体血庄(Psa),全心室重量(TVW),右心室重量(RVW)などを測定した。その結果,1)体重の成長は両群とも高地暴露によって有意に抑制された。2)へマトクリットは両群とも高地暴露の一週間目からすでに増加を示し,その傾向は6週間持続した。3)HtとRVW/TVWとの相関図において,Wistarの方が高地暴露によるHtの上昇は少なく,RVW/TVWの増加は顕著である。4)Ppa/PsaとRVW/TVWの相関図において,全体では直線関係にあり,有為な相関が認められた。このことを反映して高地暴露の効果は,両群ともこの回帰線上を上方に移動し,その変化はWistarの方が顕著であった。 以上のように,WistarとFischerラットの間では,同じ高所環境に暴露しても,右心室肥大を中心とした肺循環系に大きな差が認められ,今までのHPVの系統差が反映される結果となった。
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