研究概要 |
ジョイニングペプチド(JP)はプロオピオメラノコルチン(POMC)から産生されるペプチドのひとつとして外界のストレスにより分泌されることが知られている.われわれはこのJPに中枢性血圧上昇作用を発見した.本研究ではJPのストレスと高血圧症との関わりを調べるため,免疫組織学,生理学,分子生物学的解析を行った.(1)コルヒチン処理により,JPはラット脳で視床下部弓状核および延随孤束核の神経細胞体に分布が認められた.これは現在までに報告されているMSHやβ-エンドルフィンの分布と一致する.コルヒチン非処理のラット脳では,密な神経線維の染色像が脳室周囲核から血圧調節の中枢と考えられている視床下部室傍核の領域に認められ,またその他の視床下部領域および扁桃核,手綱核などのストレス反応に関与すると考えられている領域に広範な神経線維を投射していることが認められた.(2)JPは高血圧症自然発症ラット(SHR)に対して脳室内投与で強い血圧上昇作用および心拍数上昇作用を有する.SHRに見られるこの特異的な反応の機構を探るため,JP脳室内投与後の腎臓交感神経の活性化を調べた.50nmolのJP投与によりSHRで4.53±0.88units/sec,WKYで1.75±0.63units/secとSHRで有意に高い活性上昇を認めた.また,JP(30nmol)脳室内投与では脳脊髄液中のアンギオテンシンII濃度上昇にSHRとWKYで差は認められず,SHRにおけるJPの強い血圧上昇作用はSHRのアンギオテンシンIIに対する感受性の高さによるものと考えられた.SHRでは延随における圧受容体反射の異常が認められており,アンギオテンシンが圧受容体反射の鈍化に関係していると考えられている.一方,ストレスはコルチコトロピン分泌ホルモン(CRH)により伝えられると考えられている.CRHによる視床下部からのJPの放出を調べたところ,正常ラットではCRHによるJPの放出は認められなかったが,SHRではCRHによるJPの分泌が観察された.SHRはストレスに過剰反応する動物として知られており,ストレス反応と関連している可能性がある.(3)SHRの孤束核からcDNAライブラリーを作成し,JPの受容体の発現クローニングを試みた.このライブラリーからJPの受容体はクローニングできなかったが,アンギオテンシンの受容体(ATla)はクローニングされ,正常とシークエンスに差がないことを確かめた.またノザーンブロットにより,SHRとWKYで孤束核のATlaに差が認められなかった.以上の結果はJPがストレスによる高血圧症の病態を探る上で重要な役割を果していると考えられ,また高血圧症ではアンギオテンシンのシナブス後シグナル伝達の差が病態に関与していることが示唆された.
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