ヒトエ-リッヒア症(いわゆる腺熱)は1950年代に日本(主に南九州)から初めて報告されたEhrlichia sennetsuを病原体とする感染症であるが、その感染経路は未だ解明されていない。ところで、アメリカ合衆国では1987年および1994年にそれぞれ新種の病原体によるエ-リッヒア症が報告され、徹底的な調査によってこれらはマダニ媒介性疾患であると証明されつつある。そこで、日本においても本症がマダニ媒介性疾患であろうと予想し、本研究を計画した。腺熱の好発地であった熊本県水俣市、鹿児島県出水市、宮崎県日向市および野尻町、更に対照区として大分県久住町を調査地に選定した。調査地内の林地および草地で旗振り法によって末吸着のマダニ類を採集し、採集地、マダニ種および発育段階別に分類・整理した。採集個体数の多かったマダニ類について、同種・同発育段階の数個体ずつをプールして乳剤を作製した。それらを1乳剤について2頭のマウスに接種し、発病の有無を見た。供試したマダニ種はタカサゴチマダニ、キチマダニ、フタトゲチマダニ、タカサゴキララマダニ、タイワンカクマダニおよびヤマトマダニの4属6種で、182個体であった。これらから22系統の乳剤を作製し、44頭のマウスに接種した。しかしながら、これまでに明瞭な発病を呈したマウスは得られず、軽度の脾腫を1個体のマウスに認めるにすぎなっかた。供試したマダニ類の個体数が少なかった事もこの原因とも考えられる。しかしながら、現在、日本各地のマダニおよび野鼠から新種のエ-リッヒアが分離されつつあり、腺熱の媒介動物がマダニである可能性は否定できない。今後も注意を持って本研究を続けたい。
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