研究概要 |
本研究の目的は,癌細胞に特異的に発現されるMAGE遺伝子産物をターゲットとした肝癌特異的な免疫療法の確立をめざすものである. まず,肝臓由来の7種類の細胞株を用い,MAGE遺伝子の異なるExon間に設定したPrimerを用いて,RT-PCR法によりMAGE-1,2,3遺伝子の発現の検討を行った.次に肝癌組織切除術が施行された原発性肝癌症例を対象とし,腫瘍組織よりmRNAを抽出してβ-actinの発現を確認した後,MAGE-1,2,3遺伝子の発現を観察した. 肝臓由来細胞株では,MAGE-1,2,3は7種類のうちのそれぞれ4,4,3種類の細胞株でmRNAの発現を認めた.MAGE-1遺伝子の発現は肝細胞癌由来の細胞株に限ると4例中3例(75%)と高い発現率であった. 肝癌組織では,MAGE-1遺伝子は20症例中16症例(80%)において腫瘍部の組織でmRNAの発現が認められたのに対し,MAGE-2遺伝子の発現は12症例(60%),MAGE-3遺伝子の発現は,6症例(30%)で認められた。MAGE-2,3遺伝子のmRNAの発現が認められたものは,ほとんどの症例でMAGE-1遺伝子の発現も認められたが,径2cm以下の肝細胞癌2例においてMAGE-2遺伝子のみの発現が認められた。胆管細胞癌では腫瘍サイズがいずれも5cm以上と大きいにもかかわらずいずれのMAGE gene familyの発現は認められなかった.特異抗体を用いてペプチドの発現を検討したが,抗体の特異性の問題のためか明瞭には染色することができなかった. 現在,患者と同一のHLA抗原を有した細胞株,あるいはHLA遺伝子を導入してHLA抗原を発現させた細胞にMAGE遺伝子を導入してmRNAおよびペプチドを発現させ,患者から採取したTリンパ球をHLAをマッチさせたMAGE抗原陽性細胞をfeederとして培養して,これらのMAGE抗原発現細胞に特異的な細胞障害活性がみられるか否かを検討中である.細胞障害活性が確認できたら,これらのTリンパ球を増殖して患者の体内に戻すことで,MAGE抗原をターゲットとした免疫療法の臨床応用が可能になると思われる. 本研究で肝細胞癌に高頻度のMAGE gene familyの発現がみられることを確認できたことより,自己細胞障害性Tリンパ球を用いた癌特異的免疫療法の臨床応用の可能性を示唆するものと考えられた.
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