研究概要 |
今回の研究では,単一洞結節細胞の実験から得られたデータを基にして,時間非依存性電流であるNa-Kポンプ電流(Ip)をChapmanらのモデルを用い、背景電流(Ib)はGoldman-Hodgkin-Katzの式を用いてシミュレーションモデル化した。 1.洞結節細胞活動電位におけるNa-Kポンプ電流(Ip)の役割 実験およびシミュレーションモデルで、Ipが明らかな電位依存性を示す電流系であることが確認された。Ipの電位依存性は、細胞内外のNaおよびK濃度によって偏位することも確認された。特に,正常状態におけるイオン環境を考慮すると、細胞外に正常の5.4mMのKが存在する状態ではペースメーカー電位の領域でIpがリズミカルに変動していることが明らかにされた。Ipは最大拡張期電位において最小となり,脱分極のピークでは約20pAの外向き電流として膜電位を再分極させる作用があることが示唆された。従来の研究ではIpの活動電位における起電的な役割については不明であった。しかし,洞結節細胞は膜抵抗が非常に高い細胞であるため,Ipの活性化に伴う外向き電流はペースメーカー電位を調節する重要な外向き電流であることが確認された。 2.洞結節細胞活動電位における背景電位(Ib)の役割 背景電流(Ib)はIpと異なる,Goldman-Hodgkin-Katzの等式による単純なモデルによって表現される電流である。正常のイオン環境ではIbの逆転電位は-20mVと計算されたため,IbはIpとは逆にペースメーカー電位の領域では約-20pA前後の内向き電流として膜電位を脱分極させることが示唆された。 3.今回のシミュレーションモデル実験では旧モデルでは解明されなかった未知の電流系がIpやIbによって形成されている可能性を示唆する重要な研究と考えられた。 さらに、このようなシミュレーションモデルを用いた研究は,細胞内潅流を必要とする条件や低濃度のATP濃度の設定など、実験上困難叉は不可能な設定に対しても結果を想定することが可能であり,今後なされうる実験結果を予測する上でも重要な研究と考えられた。
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