研究概要 |
昨年度の脊髄性筋萎縮症(type-1)における研究から、脊髄性筋萎縮症(type-1)ではセロトニン系の代謝産物である5-hydroxyindoleacetic acid(5-HIAA),kynurenine(KYN),の濃度が対照群に比較して低く、ドーパミン系代謝産物であるhomovanillic acid(HVA)の濃度も低いことが明らかにされ、さらにKYNは脊髄性筋萎縮症の重症度に相関して低くなる傾向があり、キヌレニン系が脊髄前角細胞の変性に対してneuroprotectiveに働くことが想定された。本年度は対照群および脊髄性筋萎縮症におけるトリプトファン代謝産物の経時的変化を出来るだけ分析し、生理的な年齢による変化か、脊髄性筋萎縮症の病態を反映した変動なのかを検討した。 対象は生後1か月から6歳のSMA患児15例(SMA type I:9例、type II:3例、type III:3例)で、午前10時から正午の間に側臥位腰椎穿刺によって髄液を採取し第2分画の1mlを測定まで-80℃に凍結保存した。対照群として、当科に入院し同様に髄液検査を行なった200例のうち、神経疾患のないことが判明した1か月から15歳の患児の髄液を用いた。HPLC-multi-electrochemical detection systemを用いて髄液中のモノアミン関連物質、則ちtryptophan(TRP),5-hydroxytryptophan(HTP),5-hydroxyindole-acid(HIAA),kynurenine(KYN),tyrosine(TYR),3-O-methyl-DOPA(OMD),homovanillic acid (HVA),3-methoxy-4-hydroxyphenyl glycol(MHPG)の濃度を測定、SMA群と対照群におけるモノアミン関連物質の濃度の年令による変化について比較検討した。対照群ではHTP,HIAA,KYN,OMD,HVA,MHPGの濃度は5歳頃までは減少傾向を示し、KYN/HIAAには年令による一定の傾向を認めなかった。一方、SMA群てはHVA濃度は4か月頃まで対照群より低値であるが、それ以降は比較的高値を維持し年令による影響を受けず、またKYN/HIAAは年令により減少した。 SMAの髄液中モノアミン関連物質の年令による動態は対照群とは異なり、SMAの病態にTRP代謝を含むモノアミン系の異常が関与していることが示唆された。SMAの病態の解明や治療法の確立のためにも、神経伝達物質・修飾物質からのアプローチが必要と考えられた。
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